あらすじ
通貨危機により国家的危機に陥っている韓国。
麗水(ヨス)で漁業を営むカン・チョルジュ(キム・ユンソク)は、あるとき船の上で足を滑らせて機械に巻き込まれそうになった船員ドンシク(パク・ユチョン)を、船の一部を壊して助ける。
船員への給料も前借りしなければ払えず、船の修理をするお金もない。
船を売り払えば国から補助金がもらえるが、船を売ることだけは断固として拒否する。
お金に困ったカン船長は、以前もしたことがある中国からの密輸の仕事がないか、ブローカーの元を訪ねる。
だが、提案されたのは密輸ではなく、中国からの朝鮮族の密航であった。
どうしても船と船員を守りたいカン船長は、密航の仕事を引き受ける。
出航し、まっ暗で大雨の降る夜の海で中国の貨物船から密航者が乗り移る時に、1人の女性が海に落ちてしまう。
その女性(ハン・イェリ)を助けるために、思わず海に飛び込むドンシク。
そんな騒動がありながらも、密航者は全員船に乗り移り、夜が明ける。
そこに海上警察がやってくることになり、密航者は魚倉に隠れることになる。
海上警察の警察官(ユン・ジェムン)をなんとかなだめて帰らせるカン船長。
そして魚倉の蓋を開くと、隠れていた密航者は全員死んでいた。
ただ1人、ドンシクが機関室に隠れさせたホンメを除いて。
極力ネタバレなしのレビュー
1度目は、とにかくストーリーを追うことに必死でした。
最初の、物悲しい音楽にのって繰り広げられるごく普通の・・・家族のような船員たちの姿。
網にすべって機械に巻き込まれそうになったドンシクを、他の船員も船長も必死に助けようとします。
そんな、本当に家族のような船員たちが、
魚倉に隠れた密航者が全員死んでしまったこと、
たった1人生き残ったホンメという存在、によって、
どんどん変わっていく。
船長役のキム・ユンソクだけでなく、末っ子船員のドンシク、機関長ワンホ(ムン・ソングン)、甲板長ホヨン(キム・サンホ)、船員のギョング(ユ・スンモク)とチャンウク(イ・ヒジュン)、それぞれのキャラクターによってそれぞれの変わり方をしていきます。
このあたりのキャラクターの設定と変わっていく様の脚本の力、俳優さんたちの演技力、すべてが見事でした。
海上警察が帰って魚倉の蓋を開けるところまでは快晴だったのに、
密航者が死んだことが分かり、そこから次第に霧がかかってきて、
気が付くと海霧にすっかり囲まれてしまっている。
その間、船長はずっと座ったまま。
霧がかかることで時間の経過を感じ、また、霧がかかることで「船の外の世界」と「船」が断絶される(空間的・心理的に閉じ込められる)ということを、じわじわと感じられるシーンでした。
映画全体としても、ここから破滅に向かって進んでいきます。
これまでお互い助けあってきた船長・船員たちが、自分にとって一番大事なものに執着し、そのことしか考えなくなる。
自分にとって一番大事なものが壊されそうになると、それまで家族同然だった者を傷つけることに躊躇わなくなる。手段を選ばなくなる。
どんどん追い詰められていき、引き返せなくなる。
その様子を、決して突飛な展開ではなく、自然な流れとして表現する脚本と演技力にまた感嘆。
ここからラストまでや結末については、ネタバレになるので詳しくは控えますが、
最後のシーン、最後のカットを見た時には、なんとも言えない気持ちになりました。
あのワンカットだけでも「この映画を見た価値があった」と思えたほどです。
この作品の製作はポン・ジュノ、監督はシム・ソンボ。
「殺人の追憶」の監督と脚本のコンビが作り上げた映画ですので、「殺人の追憶」で韓国映画にハマった私としては、公開前から非常に期待して楽しみにしていました。
そして、その期待を上回るほどの、圧倒的なパワーを感じました。
「殺人の追憶」も、最後はソン・ガンホ氏の表情が秀逸でしたが、
「海にかかる霧」も、最後のワンカットが非常に秀逸だと思いました。
「殺人の追憶」を素晴らしいと感じる人は、きっと「海にかかる霧」も気に入るはず。
ぜひスクリーンで観ることをおすすめします。
満足度